[豚姫]

 むかしむかし、ある国のあるお城にいます、王さまとおきさきさまのあいだにとてもかわいい王子さまがうまれました。おきさきさまはすくすく成長していく王子さまをたいそうかわいがり、王子さまもまた美しいおきさきさまが大好きだったので、どんなに家来たちから婚姻の話を持ちかけられても母より美しい娘はいないと言って断ってしまうほどでした。

 しかし年月がたつとおきさきさまは老いてどんどん醜くなり、王さまは病気で亡くなってしまいました。王子さまは心がわりしてそれは若くて美しいお姫さまをもらいうけ、王子さまは王さまに、お姫さまはおきさきさまに、醜いおきさきさまはおおきさきさまになりました。

 盛大におこなわれた婚礼は国じゅうのみんながあつまり、鳥や花たちさえも祝福しているようでした。おおきさきさまは笑って祝うふりをしながらも、胸のうちでは自分にそそがれていた王さまの愛を奪ったおきさきさまを激しく憎んでいました。

 それからあくる日、嫉妬に狂ったおおきさきさまがおきさきさまの頬を平手うっていじめます。かわいそうなおきさきさまは泣きながらそれを王さまに訴え、王さまは激怒し、おおきさきさまの醜さをひどく罵ってからこう言いました。

「醜くなった母上に、もう用はない!」

 おおきさきさまはあまりのショックにその夜、寝室のベッドの上でおいおい泣いたあと毒を混ぜたぶどう酒を呑んで、おきさきさまを呪いながら血を吐いてむごたらしく死にました。


 おおきさきさまの死に顔は大変、おそろしい形相をしていたそうです。それから四年ほど過ぎた、冬のある日のことでした。おきさきさまはなかなか子供を授からず、悩んでいました。窓からちらつく綿毛のような雪を眺めては、ため息をついています。それを哀れに思った召し使いがやってきて、こんな噂をおきさきさまに教えてあげました。

「おきさきさま、おきさきさま。となりの国のおきさきさまはゆびに針を刺して、その血を雪にたらし、こんな白くて赤い子供がほしいと願ってみたそうです。そうしたら、授かったそうですよ」

 それを聞いたおきさきさまは召し使いからぬい針をもらって、窓から手を出し、ゆびをチクリと刺してみました。するとどうでしょう! つもった雪に二、三滴おちた血が桃色に滲んだではありませんか。おきさきさまは不思議に思いながらも、ああ、こんなかわいい色の子供がほしいと強く願いました。しかし、あとからおきさきさまはとても嫌な気持ちになってしまいました。

「おお、どうしたことでしょう。なぜだかわたくし、胸騒ぎがいたします」

 おきさきさまの胸騒ぎは、おきさきさまがあれほど願った子供をみごもっても、ますますひどくなっていくのでした。

 しばらくしておきさきさまは子供をおうみになりました。おきさきさまは卒倒してしまいました。なぜならうまれた子供は人間ではなく、なんとも醜い豚のお姫さまだったのですから!

 あああああ、と、おきさきさまはベッドの中でうなされながら「呪いだわ、きっと死んだおおきさきさまの呪いだわ」と、みぶるいしました。

 そのままおきさきさまはぶつぶつひとり言を呟きつづけて、廃人のようになってしまいました。

 王さまは慌てふためき、料理人をよんで「この醜い豚の姫、豚姫をやき豚にしてしまえ!」と、めいじました。おそろしくなった豚姫は厨房へと連れていかれる途中でぶーぶー泣きわめき、許しをこいました。

 料理人はさすがに哀れになったのと、こんなうまれたてのまだ太っていない豚なんかやき豚にしてもおいしくないと思ったのと、どうせすぐに狼にでも食べられてしまうだろうと安心したので、裏口から豚姫を森の奥深くへと逃がしてやりました。

 そして料理人は森でわらをつんでいる豚を見つけたので捕まえてきて、豚姫のかわりに厨房でおいしそうなやき豚にしあげました。王さまに差し出すと、王さまはおいしそうにそのやき豚を召しあがりました。

 さて森の中で豚姫はかわいそうに、途方に暮れていました。あてもなくとぼとぼ歩くと一軒の古びた小屋を見つけたので戸を叩いてみましたが、出てきたのは小人で、小人は「醜い豚にかまっている暇はない! 雪白が死んだ! 雪白が死んだ! おいらたちが待っているのは王子さま!」と、騒ぐばかりだったのであきらめて再びとぼとぼ歩きます。

 すると今度は一軒の赤い屋根の家を見つけたので戸を叩いてみますと、出てきたのはなんと狼! あっと言うまに豚姫は丸呑みにされてしまいました。狼のお腹の中はまっくらでなんにも見えません。それにほかにも丸呑みにしたものがあるのか大変きゅうくつでした。

 お腹がいっぱいになった狼は家の中のベッドにあおむけになって倒れ、そのまま気持ちよさそうにぐうぐういびきをかいて眠りこけました。そのいびきは外にまでひびいてくるほどでした。

 そのとき、通りかかった狩人がいびきを聞いて不思議に思い、窓から家の中をのぞいてみました。すると、お腹のふくらんだ狼がベッドで寝ているではありませんか! 狩人はおどろいて、これは家人が食べられてしまったに違いないと思い、慌てて家の中に入るとナイフで狼のお腹を裂きました。

 するとどうでしょう! 裂かれたお腹から赤いずきんをかぶった女の子と、おばあさんと、ついでに豚姫がいっせいに飛び出してきました。狩人、赤いずきんの女の子、おばあさんの三人は手を取りあってよろこび、豚姫はほうっておかれました。

「狼の開いたお腹に石をつめて、ぬいあわせてしまおう」

 と、三人が話しあっているうちに豚姫はそっと外に出て、去っていきました。

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